腹膜透析の実際と心臓病予防

新田 豊 先生、大村 昌人 先生
新田 豊 先生 済生会下関総合病院 腎臓内科 科長
大村 昌人 先生 済生会下関総合病院 循環器科 科長

人工透析のなかでも、腹膜透析(PD)は通院回数が少なくてすみ、仕事を継続しやすい反面、導入時の入院や自己管理のためのトレーニングが必要な治療法です。腹膜透析を導入するステップなど、新田豊先生に詳しくうかがいました。また、透析患者さんに多いとされる心不全をどのように予防すればよいか、大村昌人先生に教えていただきました。

腹膜透析はどんな方に向いているか

― まず、腹膜透析について新田先生にうかがいます。腹膜透析はどのような方に適していますか。

 現在はお腹の手術をした方や、胃ろうを造設した方でも腹膜透析を選択できるようになりました。基本的に禁じられる条件はありませんが、腎臓の機能(残腎機能)が残されている方の方が、透析液の量や注排出の回数が少なくてすみ比較的楽に腹膜透析を始めることができます。また、数年以内に生体腎移植を検討されている方にも適しています。

 ただ、外出時にも、透析液の入った1.8㎏のバッグを持ち歩かなければなりませんし、自分自身で毎日きちんと操作しなければなりません。高齢の方が行うにはご家族の見守りや、訪問看護ステーションなど公的なサービスとの連携が必要だと思います。

 なお、一度選択した治療法をずっと続けなければいけないということはありません。「腹膜透析で始めたけれどどうしても継続が難しい」といった場合は、血液透析に変更することも可能です。

腹膜透析開始までのステップ

― 腹膜透析の開始前の準備について教えてください。

 腹膜透析を始める前に、予め入院してお腹にカテーテルを埋め込む手術が必要です。カテーテルを埋め込む手術と、その先端の出口部を取り出す手術を2回に分けて行う方法を「段階的導入法(SMAP)」といいます。5日〜1週間後に退院し、その後通院で自己管理の方法を学び、4〜8週間後に2度目の手術の後に透析治療が始まります。

 一方、1回の手術で術後、ただちにお腹の中の注排液交換を開始することもあります。これは透析導入前に症状が悪化してしまった患者さんによく行われており、多くは2〜3週間ほどの入院を経て退院となります。

新田 豊 先生

合併症を予防するために

― 腹膜透析に特有の合併症を予防するには、どのようなことが大切でしょうか。

 カテーテルについたばい菌からの感染に注意が必要です。頻度はそう多くはありませんが、腹膜炎などのリスクがあります。しかし、あまり神経質になる必要はありません。予防はカテーテルの出口を清潔にする、それだけです。1日に2回、消毒液でカテーテルの出口部を消毒します。そして汗をかいた時など、不潔だと思ったらもう一度消毒をやり直します。入浴時の管理についてはパウチで覆う、そのまま入るなどさまざまな方法がありますので、主治医に尋ねてみてください。

 便秘はカテーテルの機能異常や腹膜炎のきっかけになることがあります。日ごろから便秘をしないようにすることも大切ですので、困っている場合は主治医に相談しましょう。

腹膜透析患者さんの運動と食事

― では、運動についてうかがいます。腹膜透析の場合、「腹筋を使う運動はしない方が良い」という話をよく聞きますが…。

 透析液が入っているところに腹圧が過度にかかると、ヘルニアのほか、ごく稀には横隔膜交通症という合併症が起こる可能性があります。日常的に軽い体操や、ウォーキングなどを行うのは問題ありませんが、腹筋体操や腕立てふせ、鉄棒など腹筋を過度に使う運動は避けるようにしてください。

― 食生活ではどのようなことに気をつければよいか教えてください。

 血液透析の方にも共通しますが、栄養管理をしっかりしながら、きちんと食べることが大切です。腹膜透析の方の場合、血液透析の方に比べてリンの摂取量を抑える必要がありますが、カリウムに関しては制限がやや緩やかです。

 高齢の方は自然に食事量が減る上、お腹の中に入れた透析液のために満腹感が生じて食事量が一層落ちたり、摂取カロリーを制限しすぎたりして「低栄養」になることがあります。塩分、リン、カリウムに注意しながら、患者さん一人ひとりに合わせて設定された1日のエネルギー量を摂るようにしてください。

 なお、腹膜透析には被嚢性腹膜硬化症(EPS)という合併症のために、目安としては透析開始後7年程度で血液透析への移行が必要になります。栄養状態が良好な上、体調もよい状態で血液透析に移行された方は、長生きしやすいというデータもありますので、栄養をきちんととることはとても大切です。

新田 豊 先生

透析患者さんの心臓病予防

― ここからは循環器の専門医である大村先生に、透析患者さんの心不全についての解説をお願いします。

 血液透析・腹膜透析に共通して、透析患者さんは一般の方よりも動脈硬化、狭心症、心不全のリスクが高いので注意が必要です。慢性腎不全である透析患者さんは体内の水分、リン、カルシウムの調節がうまくできません。そのため、血管壁にリンやカルシウムが石灰となって付着し、血管の弾力性が失われた「動脈硬化」となります。硬くなった血管を通る血液の量や質に大きな変化が生じると、血管や心臓が強いストレスを受け、狭心症や心不全となるのです。

 狭心症の発作が起こると、胸や背中がしめつけられるような痛みがあります。通常5〜10分で治まりますが、症状が消えても早めに循環器科を受診するようにしてください。特に糖尿病から透析導入となった方は、神経障害の影響で痛みを感じにくいものです。急な冷や汗、気分が悪くなった、吐き気といった症状が心筋梗塞の前兆として出ることがありますので、すぐに受診が必要です。

 なお、心臓の状態が非常に悪化するまで症状が全く出ない方もいらっしゃいます。早期発見のためには、症状がなくても年に1回程度は循環器科のある医療機関で定期的に心臓の検査を受けるとよいと思います。

大村 昌人 先生

― では、運動についても教えてください。検査で心臓病のリスクがあると指摘されていても、運動をしてもよいのでしょうか。

 できる範囲で体を動かすことはむしろ望ましいと言えます。安静第一と家の中でばかり過ごすのは却ってよくありません。1日1時間程度のウォーキングならそれほど大きな負荷にはなりませんし、心臓リハビリテーションという意味でも有効です。足は第二の心臓と言われますが、足に筋肉がつくと、心臓がうまく使える助けにもなります。適切な心拍数などは患者さんの年齢や健康状態によっても違いますので、主治医と相談しながら、きついと感じた時はやめるという形で行うとよいでしょう。

大村 昌人 先生

― 心臓病予防という観点から、食生活で気をつけたいことを教えてください。

 新田先生のお話にもありましたが、栄養管理をしっかりしながらきちんと3食とることが基本です。心臓の負担を軽くするためにも、1日2食よりは3食に分散してエネルギーを摂るようにしてください。

 「これをやめれば心臓病によい」というものはありませんが、体重の増加と塩分の摂りすぎには注意が必要です。食生活をきちんとしようと心がけている方は、その後の経過も良好ですので、ぜひ意識していただきたいと思います。

患者さんへのメッセージ

現在は腹膜透析・血液透析を問わず、人工透析治療の技術が確立しています。せっかくの高度技術を使える時代ですから、しっかり活用して腎不全と上手につきあっていただきたいと思います。透析を続けながらもできるだけ自由な活動ができるように、患者さんと医療者が協力し合いながら、一番よい状態を保っていきましょう。(新田先生)

「腎不全は腎臓の病気」と理解されている方が多いのですが、実際は腎臓だけではなく、全身の血管を侵す全身病です。人工透析導入の時から全身の血管の病気が始まっていると考えてください。ただ、あまり神経質にならないことも大切です。心臓への影響を最小限にするために運動や食事に留意しながら、病気とうまくつきあっていきましょう。(大村先生)

お話を伺った先生

新田 豊 先生
済生会下関総合病院 腎臓内科 科長
新田 豊 先生
大村 昌人 先生
済生会下関総合病院 循環器科 科長
大村 昌人 先生

病院のご紹介

病院名 社会福祉法人 恩賜財団 済生会支部 山口県済生会下関総合病院
所在地 山口県下関市安岡町8-5-1
TEL.083-262-2300(代表)
診療科目 外科・泌尿器科・消化器内科・循環器科・形成外科・放射線科・皮膚科・膠原病内科・整形外科・心臓血管外科・腎臓内科・小児科/新生児科・緩和ケア内科・耳鼻咽喉科・病理科・リエゾン科(こころの外来)・産婦人科・脳神経外科・呼吸器科・麻酔科・眼科・歯科口腔外科・神経内科
Webサイト https://www.simo.saiseikai.or.jp/