しつこい便秘や続く下痢。放っておいて大丈夫?

身近な「便秘」にひそむリスク

倉賀野 隆裕 先生 透析患者さんには、便秘や下痢、食欲不振などに悩む方が多くいらっしゃいます。いずれも患者さんにとって身近な症状で「たいしたことはない」と考えがちですが、透析を続けながら良い体調を維持するためには、やはり気をつけておきたいことです。
 透析患者さんに最もよく見られるお腹の症状は「便秘」です。便秘にはさまざまな原因があります。
 腸は本来、食べ物が胃に入るとその刺激で蠕動運動を起こし、便を送り出す機能があります。透析患者さんの場合、からだのリズムをつかさどる自律神経が影響を受け、腸の働きが低下したり、腸管の血流が悪くなることもあります。そのため便秘しやすくなりますが、なかには反対に必要以上に活発になってひどい下痢を起こしたり、あるいは便秘と下痢を繰り返す方もいます。
 また、日頃の運動不足の影響も大きいと思われます。体を適度に動かさないと腸管が刺激を受けないので便秘になりやすいのです。でも、自宅で過ごす時間が長い高齢の透析患者さんでは積極的に運動するのも難しいでしょうし、かといって、運動の代わりに腸に刺激を与えるためにずっとお腹をマッサージしてもらうのも現実的ではありません。運動不足の解消はなかなか難しいところです。
 その他に、食事も原因の一つになります。食事で摂る食物繊維が不足すると便が固くなり、便秘しやすくなることはよく知られています。しかし、透析患者さんの場合、カリウムの制限がありますので、食物繊維の補給源となる野菜や果物を十分に摂ることができません。また、水分摂取も控えなければならず、透析治療で体内の水分を除去するために、どうしても便が硬くなります。サプリメントで食物繊維を摂るという方法もありますが、市販のサプリメントにはカリウムが含まれていることが多いので、注意が必要です。
 便秘は「年齢のせい」「透析をやっているから仕方ない」「1〜2週間出なくても大丈夫」などと軽視されることも多いのですが、便秘のためにいつもお腹が張っている感じがあればごはんはおいしく食べられません。食欲が落ちて食事の量が減ると、栄養不足になるリスクがあり、透析患者さんの体調を維持していく上で大きな問題になります。また、「硬結便」と呼ばれるひどい便秘の場合、命にかかわることもあります。これについては後ほど詳しく紹介しましょう。

長く続く下痢は栄養不足の原因に

倉賀野 隆裕 先生 一方、透析患者さんのなかには、下痢をしがちな方もいます。数の上では便秘ほど多くはないのですが、頻繁に下痢をするつらさは、便秘以上かもしれません。
 「水様便」と呼ばれるひどい下痢は心身ともにとても苦しいものですし、脱水症状を起こす危険性もあります。しょっちゅう便意が来るため外出にも不自由ですし、毎日の生活に困ってしまいます。もし透析中に下痢をすると、その都度回路をくくって、機械から外しトイレに行ってもらうなど、大変なことになります。
 患者さんやご家族のなかには、よく「便秘するくらいなら軟便くらいのほうがまし」とおっしゃる方がいますが、軟便といえども、やはり正常な状態ではありません。
 ひどい下痢はもちろんですが、軟便であっても、長く続けば食事からとった栄養が吸収できず栄養不足になりかねないからです。
 健康な方にとっても、栄養不足は寝たきりや要介護状態につながる大きな問題です。透析患者さんにとっても、体調を維持して透析生活を続けていくには、カリウムや塩分、たんぱく質の量などに留意しながらも、きちんと栄養を摂ることが大切です。便秘や下痢など腸の調子が悪いと、腸内細菌のバランスも崩れてしまいますし、栄養状態が悪くなりますので、お腹の調子はやはり改善することが望ましいのです。

薬が原因の便秘・下痢もある

 ところで、透析患者さんが普段使うお薬のなかには、便秘や下痢を起こしたり、便の色が変わるものがあります。このような、お薬が原因の便秘や下痢を「薬剤性便秘」「薬剤性下痢」といいます。
 薬剤性便秘の場合は、個人差はあるものの、ひどい便秘になりやすいのです。先ほど述べた「硬結便」と呼ばれる非常に硬くて黒っぽい便などがよく見られます。硬結便が腸を通過するときには、腸管の壁が薄くなるほど大きな力がかかり、ひどい腹痛を起こす「虚血性腸炎」という病気や、最悪の場合は腸管に穴があいてしまうこともあります。便秘といえども、こうなると命にかかわる事態になります。
 できるだけ、下痢や便秘といった副作用の出にくいお薬を処方していただくことが望ましいのですが、現在のお薬を使いながら、下剤を処方してもらい、うまく調整することでも対処できます。
倉賀野 隆裕 先生 ただ、下痢と便秘を繰り返す場合は大腸がん、便秘が続く場合には大腸がんやポリープが隠れている可能性もありますので、不調の原因をお薬のせい、と決めつけるのはよくありません。症状が続く場合はそのままにせず、主治医の先生に相談して便潜血反応(検便)などの検査を受けるようにしてください。黒い色の便も、万一、大腸がんで血液が混じっていてもわかりませんので、やはり健康管理の上では好ましくありません。
 口で体調を訴えることができない赤ちゃんが健康かどうかを見る時、おかあさんはまずおむつの便の色や形状をみるでしょう。毎日、便の形状や色などをチェックすることは、誰でも簡単にできる健康管理の基本。透析患者さんにとっても腸の健康は健康管理の上でとても大切です。
 便秘や下痢を軽視することなく、もし調子が悪ければ、主治医の先生といっしょに改善の手立てを考えていただきたいと思います。

倉賀野 隆裕 先生

お話を伺った先生

兵庫医科大学病院 准教授 医学博士
倉賀野 隆裕 先生

日本透析医学会認定専門医、日本内科学会認定内科医・指導医。

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