教えてドクター

第3回 食事療法について

坂井瑠実 先生

透析は1日24時間、週168時間働いている腎臓の肩代わりをしています。しかし、週3回、1回4時間という標準的な透析は、いのちを維持するための最低限の措置で、透析を行いながら元気に長生きするためには、きちんとした食事を摂ることが大切です。そこで透析を受けている方の食事療法、栄養管理について、ドクターに教えてもらいます。

栄養不足に気をつけましょう

エネルギー・タンパク質の重要性について教えてください。

 透析をしながら元気に長生きするためには、長めの透析が必要だとお話ししてきました。しかし、透析を受けている方に最も多い合併症は栄養障害ですから、標準的な透析を続けるにしても、長めの透析を行うにしても、大切なことはきちんとした食事療法を行い、栄養管理をしながら、エネルギー・タンパク質を補給することです。
 腎臓病は他の病気と異なり、タンパク質が悪者にされて栄養指導が行われます。なぜかと言えば、透析を受けている方がタンパク質を多く摂ると、リンや尿素窒素などの値が上がり、不利益の方が多くなるからです。しかし、筋肉をつくったり、免疫力を上げたりするのに必要なのはタンパク質ですから、腎臓病の方が元気に長生きするためには、透析をしっかり行って毒素を抜きながら、エネルギー・タンパク質を摂ることが必要なのです。

エネルギー・タンパク質はどれくらい摂ればいいのですか。
1日の目安を計算してみましょう!!
日本腎臓学会「腎疾患患者の生活指導・食事療法に関するガイドライン」より

 日本腎臓学会が推奨している、標準的な透析を行っている方が、食事で摂るべき1日の総エネルギー量は、体重1キロ当たり30〜35キロカロリーです。タンパク質は体重1キロ当たり1.0〜1.2グラムです。
 タンパク質からつくられるアミノ酸が、透析によって抜けることを心配する方が時々いますが、きちんと透析を行い、しっかり食べてタンパク質を補給すれば、アミノ酸の抜けを気にする必要はありません。また、連日オーバーナイトで透析を行っている方はともかく、一般の透析を受けている方ではサプリメントでアミノ酸を補う必要もありません。

合併症を予防する食事とは

循環器の合併症には、塩分・水分の管理が大切です。

 合透析を受けている方の死亡原因のうち、40パーセント強が心不全、脳梗塞、心筋梗塞などの循環器系疾患で占められます。その原因となる高血圧を防ぐためには、塩分の過剰摂取に気をつけなければなりません。ガイドラインで示されている塩分の1日の摂取量は、ドライウエイト(主治医が決めた透析終了後の目標とすべき体重)1キロ当たり0.15グラム、一般的な体重の人なら約6グラムです。
 塩分を摂りすぎると、のどが渇いて水分を摂りすぎ、体重が増えることにつながります。ただ単に「水分を摂りすぎないで」と言っても、塩分を抑えなければ、のどが渇いて水が欲しくなります。ですから、私は「水を制限しなさいね」とは言わず、「塩分をコントロールしてください」と言います。ちなみに1日に摂る食事外の水分は、ドライウエイト1キロ当たり15ミリリットルです。
 ただし、ガイドラインの1日6グラムという塩分の量は、かなり厳しい数値です。私は守れる範囲ということで、「1日6〜8グラム」という指示を出しています。ただし、それは1回の透析で、どれくらいのナトリウム濃度で、どの程度の水を抜くかで決まってきます。標準的な透析の場合、透析日が1日空く場合は少し緩めに、2日空く場合は「少しがんばって塩分控えてくださいね」と伝えています。

カリウムの摂取を少なくしましょう。

 透析を受けている方の合併症のひとつに高カリウム血症があります。高カリウム血症になると、急に心臓が止まったり、不整脈が出たりして、いのちを失うこともあります。高カリウム血症の原因は、カリウム含有量の多い食物の摂取です。
 カリウムはイモを含む野菜や果物に多く含まれています。したがって、一般的に、透析を導入する際には、栄養士が「果物は控えめにし、野菜は茹でて、茹で汁は捨てて、そのまま食べてください」などと指導します。ガイドラインで示されたカリウムの1日の摂取量は1.5グラムです。
 しかし、野菜を茹でて食べたり、果物を摂らなかったりしていたら、ビタミンCなどのビタミン類は摂りようがありません。ですから、そういう食事の場合には、ビタミン類をサプリメントで補充することもよいでしょう。
 最近、さまざまなドライフルーツが出回っていますが、透析を受けている方にとって、あれほど恐ろしい食品はありません。もともとカリウムが多い果物がドライにしてあるわけですから、まさに「カリウムの宝庫」なのです。いずれにしても、カリウムの摂取を抑えるには、カリウムを多く含有するイモ類、野菜類、果物、海草類、豆類などの摂取を少なくすることです。

リンを管理しましょう。

 以前は、透析を長期間行うと骨がもろくなり、風邪をひいてひどい咳をした際に肋骨が折れて動けなくなるというケースがありました。ですから、透析には骨の問題がつきまとうと認識されていました。
 しかし、最近では骨の問題よりも、リンの過剰な摂取によって引き起こされる血管や心臓弁膜へのカルシウム沈着が、生命予後を悪く していることが問題視されています。ですから私は、「気をつけなければいけないのは、まずリンです」と言っています。
 リンの過剰な摂取は、血管の動脈硬化や石灰化をもたらし、副甲状腺機能や骨の代謝に悪影響を及ぼします。一般的な透析を受けている方の1日のリン摂取量は、700〜800ミリグラムと考えています。
 リンは多くの食品に含まれており、とくにタンパク質を含む美味しい食品に多く含まれています。カルシウムを多く含む乳製品も、タンパク質やリンを多く含有しています。しかも、透析により除去できるリンの量は限定されていますから、どうしても透析を受けている方はリンの摂取が過剰になりやすいのです。
 リンの摂取を抑えるには、リンの含有が比較的少ないタンパク質を摂ることです。最近は、炭酸ランタンというリンの吸着剤があり、リンを多く含むタンパク質を摂っても、炭酸ランタンを飲めば、リンは吸着されてそのまま排出することができます。2、3年前までは副甲状腺摘出術の症例が、年間50〜60例ありましたが、このお薬のおかげでそれはほとんどなくなりました。

病院内の食事&病院外の食事

坂井瑠実クリニックの病院食の内容や、ポイントを教えてください。

 私のクリニックでは毎日、通院患者さん向けに昼食と夕食を提供しており、1週間献立表と月間献立表を貼り出しています。1ヵ月の間にできるだけメニューが重複しないように配慮し、たとえば同じハンバーグでも、ある日はきのこハンバーグ、別の日は煮込みハンバーグと、バラエティを持たせています。
 また、1週間献立表には、その日の献立に含まれるエネルギー(キロカロリー)、タンパク質(グラム)、塩分(グラム)、カリウム(ミリグラム)、リン(ミリグラム)の数値が書かれていて、日々、バランスの取れた食事療法ができるよう管理されています。

通院患者さんの献立表(例)
病院外の食事において注意する点があれば教えてください。

 私最近は手軽にコンビニ弁当で済ませる方も多くなっていますが、コンビニ弁当の注意してほしいところは、塩分とリンが多く含まれている点です。また、デパ地下のお総菜も人気がありますが、できれば最初から調味料がかかっているものではなく、自分で醤油やソースを加減できる品物を買うようにとアドバイスしています。
 いずれにしても、透析を受けている方は、きちんと透析を行うのと並行して、しっかりと栄養管理を行うことが大切です。日常的に栄養に気を配り、食事の内容をチェックする習慣をつけておけば、次の血液検査でリンの値がどれくらいになるか、自分で予測がつくようになります。そういう食生活ができていれば、週に1回程度、家族と一緒に外食を楽しんでも大丈夫だと思います。

坂井 瑠実 先生

坂井瑠実クリニック理事長
医学博士。内科・腎臓・糖尿病・人工臓器各学会に所属。
腎臓学会指導医、透析医学会指導医。
岐阜県立医科大学卒業後、神戸大学医学部第2内科入局、腎臓グループに所属。腎友会病院院長、住吉川病院院長を経て1998年、坂井瑠実クリニック開設。

坂井 瑠実 先生

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