歴史ある寺院と風光明媚なまちを訪ねて
夏の鎌倉・花めぐり

掲載:2014年 vol.18

夏の鎌倉・花めぐり

都心からほど近く、豊かな自然に囲まれ、しっとりと穏やかな時間が流れる古都・鎌倉。
鎌倉幕府の興隆をきっかけに、多くの寺社仏閣が創設され、今もその姿を残しています。
数々のお寺の境内では、季節の花々が楽しめ、毎年全国からファンが訪れるほど。
今回は、そんな鎌倉が誇るお寺とお花、街の風景をご紹介しましょう。

幕府成立をきっかけに花開いた、
鎌倉の武家文化と仏教。

 鎌倉は、北・東・西の三方を山に囲まれ、南は相模湾に面した自然豊かな街です。古くより海以外の方角から鎌倉に入るには、狭い通路を通るしかなく「天然の要塞」を持つ地形であったことから、源頼朝がこの地を拠点とし鎌倉幕府を築きました。鎌倉時代から武家による社会の仕組みや文化が発展し、宗教面でもその後の日本に大きな影響を残したと言われています。従来からあった真言宗と律宗に加えて、当時鎌倉新仏教(禅宗・浄土宗・寺宗・日蓮宗)などが栄え、全国へと広まりました。今も多くの寺社仏閣が残り、中には花の名所として参拝者に親しまれている寺社もあります。
 夏に鮮やかな百日紅の花を咲かせるのは、1436(永亨8)年に創建された本覚寺です。佐渡から鎌倉に戻った日蓮上人が一時身を寄せていたとされ、その遺骨を分骨して納めていることから「東身延」とも言われています。春のしだれ桜や秋のイチョウ などの美しさも有名で、訪れる人の目を楽しませてくれます。

本覚寺と百日紅(さるすべり)

百日紅(さるすべり)
ミソハギ科の落葉中高木。花が美しく病気にも強い上、大きくなりすぎないことから、好んで庭や公園に植樹される植物。新しい幹はすべすべしているため、サルが登ろうとしても滑ってしまうというのが和名の由来とされる。

本覚寺
日蓮宗の本山(由緒寺)。本尊である釈迦三尊像は鎌倉市の重要文化財に指定されている。毎年正月の初えびすは、多くの人で賑わう。

見る人の心を打つ、
静かに咲き誇る花々

 瑞泉寺は、「鎌倉随一の花の寺」として有名な寺院です。紅葉ヶ谷と呼ばれる一帯に静かに佇むお寺で、紅葉の名所としても知られています。本堂の裏にある庭園は、岩盤を削ってつくられた禅宗様庭園で、後の書院庭園の起源になったとも言われています。文学や学問とのゆかりも深く、境内には久米正雄の墓をはじめ、大宅壮一や吉田松陰など多くの碑があります。夏の瑞泉寺を彩るのは、透明感のある白色の芙蓉(ふよう)です。深い緑の葉とのコントラストも美しく、涼やかな表情が魅力です。

瑞泉寺
釈迦如来を本尊に祀る、臨済宗円覚寺派の寺院。一年中花が絶えることはなく、境内には梅やつつじ、牡丹、スイセンなどが花を咲かせる。境内は1971(昭和46)年に「瑞泉寺境内」として国の史跡に指定。

芙蓉(ふよう)

芙蓉(ふよう)
アオイ科フヨウ属の落葉低木 。「芙蓉」はハスの美称でもあることから区別する際は「木芙蓉」とも呼ばれる。夏から秋にかけてピンクや白の花を咲かせる。朝に開いて、夕方にはしぼむ一日花。

 だいだい色の花をこぼれんばかりに咲かせるノウゼンカズラが見もののお寺が妙本寺です。かつてこの地で栄えながらも、鎌倉幕府の将軍の後継問題に巻き込まれ滅ぼされた比企能員公ら比企一族の供養のために、日蓮聖人が開かれ守り伝えられてきた霊跡の一つです。杉木立をはじめとする深い谷戸に位置する妙本寺は、市街地にありながらも喧騒から離れ、静かな佇まいを残します。小鳥の声、風の音を耳にしながら、四季折々の自然に身と心を投じる。日常を忘れることができる穴場です。

妙本寺
鎌倉時代、妙本寺のある谷戸には比企能員一族の屋敷があり、2代目将軍・頼家は幼少期をここで過ごしたとされる。所蔵の銅造雲版は、国の重要文化財に指定されている。

ノウゼンカヅラ

ノウゼンカヅラ
ノウゼンカヅラ科のつる性の落葉樹。夏から秋にかけ、だいだい色や赤色の鮮やかな花を咲かせる。豊富な蜜があり、メジロやハチドリ、蜂などがよく集まってくる花でもある。

 1285(弘安8)年、北条時宗の妻・覚山尼によって開創されたのが東慶寺です。かつて女性から離縁ができなかった時代に駆け込めば離縁できる女人救済の寺として知られ、現代の家庭裁判所の役割も果たしていたことから「駆込寺」、別称「縁切り寺」とも呼ばれていました。1902(明治 35 )年までは本山を持たない独立した尼寺でしたが、現在は男僧の寺院に改められました。初夏には境内の壁面に岩タバコの花が咲きます。岩肌一面に咲くのは、大変珍しいと言います。さらに同じ時期、本堂裏には岩ガラミが花を付け、一年でこの季節だけ時間を限って特別公開されています。

東慶寺
臨済宗円覚寺派の寺院で、釈迦如来坐像を本尊とする。江戸時代には徳川家ともゆかりが深く、近年では夏目漱石や仏教学者の鈴木大拙もよく訪れたという。初音蒔絵火取母や葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱などの重要文化財を所蔵している。

岩タバコ

岩タバコ
イワタバコ科の多年草。岩壁に自生し、花が美しいため山草として栽培もされる。白と紫色の、素朴で可憐な花を付ける。

岩ガラミ

岩ガラミ
ユキノシタ科イワガラミ属の落葉つる性本木。高木や岩壁に付着して、絡み合いながら登る。クリーム色の小さな花序のまわりに、白色の花びらを付ける。

 「萩(はぎ)の寺」としてその名を知られているのは宝戒寺です。毎年9月頃になると、境内は石畳まで届く白く可憐な萩の花で、埋めつくされます。宝戒寺は、1335(建武2)年、後醍醐天皇の発願にもとづき足利尊氏によって創建されたと伝えられている天台宗の寺院。新田義貞によって滅ぼされた北条氏一門を弔うため、北条執権屋敷跡に建立されました。本堂には、足利尊氏が寄進した地蔵像や梵天、帝釈天の三体が安置されています。また本尊である子育経読地蔵大菩薩は、国の重要文化財に指定されています。

宝戒寺
天台宗の寺院で、戒壇院が置かれ国宝的人材を養成する道場として位置づけられていました。萩の他、春の桜や夏の百日紅、酔芙蓉、冬の梅や椿なども有名で、境内は四季折々の花によって彩られます。

萩(はぎ)

萩(はぎ)
マメ科ハギ属の落葉低木。秋の七草の一つで昔から日本人に親しまれ、古くは『万葉集』でも詠まれている。しだれるような姿や丸みを帯びた葉の形から、優しい印象を受けるが、痩せた土地でもたくましく自生する。

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