初秋の便り
紀伊山地の聖地をたずねて

掲載:2015年 vol.21

那智の滝と那智山青岸渡寺

古くは神話にも登場し、平安時代から参詣者が途絶えなかった熊野三山。
そして山上の宗教都市・高野山や山岳霊場。
紀伊山地の霊場とこれらを結ぶ参詣道は、ユネスコの世界遺産に登録されています。
今回は、これらの歴史深い紀伊山地の聖地と、和歌山の美しい海をご紹介。
秋の香りを感じる旅に出かけましょう。

那智の滝と那智山青岸渡寺
「那智山青岸渡寺」は、西国三十三ヵ所観音霊場の第一番札所。奈良時代の観音菩薩立像は国の重要文化財に指定されており、境内に立つ三重塔の上層部からは、天気が良ければ太平洋が望める。熊野那智大社の別宮である飛瀧神社のご神体「那智の滝」は、高低差133メートルで日本一の落差を誇る。

熊野の聖地へ導かれて。
今も残る祈りの道。

 和歌山県の南東に位置する熊野は、古くから修験道の地とされてきました。修験道とは、山岳信仰と仏教が融合した日本独自の宗教で、山に籠って厳しい修行を行うことで悟りを開くことを目指すもの。ここに熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社の3つの神社が興り、3社それぞれの神を共通の祭神とするようになってから、「熊野三山」と呼ばれるようになりました。3社の他に、那智山青岸渡寺と補陀落山(ふだらくさん)寺の2寺もここに含まれ、神仏習合の聖地として、今も篤い信仰を集めています。
 熊野三山へ通じる参詣道は6つのルートがあり、そのうち平安時代に上皇や女院など身分の高い人々が京の都から詣でた際の道を「熊野古道」と呼びます。中でも紀伊田辺から険しい山道を歩く「中辺路(なかへち)」はメインルートとされ、途中には風情ある茶屋の跡や数々の王子(熊野の神々の御子神が祀られている場所)などの見どころもあります。

地図
熊野那智大社

熊野那智大社
熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)を主祭神とし、国づくりに縁の深い十三柱の神々を祀る。御本殿や瑞垣・鈴門などからなる社殿は、国の重要文化財に指定されている。

古(いにしえ)の風情を感じる
聖なる山路と川路。

 熊野三山へ巡礼するための参詣道は6本あります。小辺路・中辺路・大辺路・紀伊路・伊勢路・大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)で、そのうち小辺路・中辺路・大辺路・紀伊路・伊勢路の5本の道が「熊野古道」と呼ばれています。
 2004年、熊野三山を含む3つの霊場とそれぞれを結ぶ参詣道、それらを取り巻く文化的景観が「紀伊山地の霊場と参詣道」として、ユネスコの世界文化遺産に登録されました。和歌山県、三重県、奈良県の3県23市町村にまたがる実に広いエリアです。ただ、「遺跡」としての観点から熊野古道のうち一部近代的な舗装が進んでしまった紀伊路のみ、登録が叶いませんでしたが、この道も伊勢神宮と熊野三山という2つの聖地を結ぶ歴史と由緒あるルート。古来より東方から詣でる人々が「伊勢へ七度、熊野へ三度」と言い歩いた信仰の道でした。峠や竹林、浜辺など変化に富んだ自然の景観が楽しめます。

熊野本宮大社

熊野本宮大社
家津美御子神(別名スサノオノミコト)を主祭神とする。熊野造りの御本殿は、先だって41年ぶりに御屋根の檜皮を葺き替え、2013年に再生した。

地図
大門坂

大門坂
熊野古道のメインルート「中辺路」にある、約3kmの石畳の階段道。熊野那智大社へ続いている。

 ところで、熊野を巡る道は、山路ばかりではありません。熊野川を移動する「川の熊野古道」は、上流の熊野本宮大社から下流の熊野速玉大社へ、舟で進みます。約90分間の舟旅は、語り部によるほら貝の音色を合図に出発。落差30メートルの「葵の滝」をはじめ、屏風が畳まれているように見える不思議な「屏風畳折石」、釣鐘をくり抜いたような形で崩れ落ちたらこの世が終わると伝えられる「釣鐘石」など、神秘的な風景を満喫しながら、途中の河川敷では上陸して小休憩も。権現川原で下船したら、そのまますぐ近くの熊野速玉大社へ参拝できます。

川の熊野古道
熊野速玉大社
熊野速玉大社
熊野速玉大神や熊野夫須美大神をはじめ、十三柱の神々を祀る。朱塗りの神殿や御神門が美しく、神話に登場する「八咫烏」が描かれた紋帳も熊野ならでは。境内の「梛の大樹」は推定樹齢1000年と伝わり、国の天然記念物に指定されている。

約1200年前に開山。
修験道場に始まった宗教都市「高野山」。

高野山の寺院

高野山の寺院には、凛とした静かな空気が満ちている。

 和歌山県の北部、標高約1000メートルの山々が連なる高野山に、816(弘仁7)年、弘法大師が真言密教の修行の場を開きました。以来、比叡山と並ぶ日本仏教の聖地として、多くの人が参詣に訪れています。檀上伽藍(だんじょうがらん)と呼ばれる根本道場を中心に宗教都市を形成し、現在、山内の寺院数は117ヵ寺におよびます。これらの寺は「塔頭(たっちゅう)寺院」と言い、弘法大師の徳を慕って建てられたもの。その一部は、宿坊として参拝者に宿を提供しています。食事には、高野山で長年受け継がれてきた滋味豊かな精進料理が供され、写経や読経を体験できる寺もあります。
 高野山には、曼荼羅や仏像など、国宝や重要文化財といった貴重な美術品が約5万点も保存されています。高野山霊宝館で展示されており、この館自体も大正時代に建てられた漆喰木造の建物で、国の有形文化財に指定されています。

高野大滝

高野大滝
高野山の信仰の中心「奥之院」の近くにある滝。秋には紅葉が美しく色づく。

美しい山々が連なる幻想的な風景

標高の高い高野山からは、美しい山々が連なる幻想的な風景が望める。

檀上伽藍

檀上伽藍
弘法大師が高野山を開いた時、最初に真言密教の道場を建立したとされる聖地。鮮やかな朱塗りの根本大塔(写真)や、薬師如来を本尊とする金堂、国宝の不動堂などが立つ。

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